新生活に向けた準備が進むなか、帰郷後の新しい取り組みとして「24時間自動選曲によるネットラジオ配信」のプロジェクトを始動させています。今月の頭から、その心臓部となる自動選曲システムの開発に没頭していました。
既存の「おすすめ」とは一線を画す、MIR(音楽情報検索)の実装
世の中には星の数ほどの選曲アプリやプレイリスト作成アルゴリズムが存在します。しかし、現役の音楽家として、そしてMIR(Music Information Retrieval:音楽情報検索)という、コンピュータが音楽を解析・理解する分野を探求する者として、単純なジャンル分けや既存のタグ情報に頼るようなシステムを作るつもりはありませんでした。
楽曲の音響特徴量を多角的に抽出し、独自の評価関数を通して「今の空間・情緒に最も適した1曲」を滑らかにつないでいく。人間の感性と数理モデルが交差するような、独自の選曲ロジックをゼロから組み上げました。
しかし、開発には予期せぬ落とし穴もありました。
開発環境であるMac上で意図通りに機能していたアルゴリズムを、いざ本番サーバーであるLinux(Ubuntu)環境に移すと、抽出される特徴量とそこから算出される評価値が大きく乖離してしまったのです。OSの違いによって、同じアルゴリズムでも特徴量や評価値に予想以上のズレが生じました。昨日からつきっきりでデバッグを重ね、本日ようやくこの数値のズレを抑え込むことに成功しました。
もっとも、ひとつの課題をクリアすると、また新たな問題が顔を覗かせるのが開発の日常なのですが…笑。技術的な骨組みは、概ね狙い通りの精度まで仕上がってきています。
著作権実務という「もうひとつの現実」
技術面での目処が立つ一方で、避けて通れないのが法務・権利面の整理です。
例えば「J-POPや洋楽などの有名曲を24時間ラジオのように流し続ける」という配信スタイルを考えた場合、YouTubeの一般的な包括契約(個別の投稿動画に対する著作権許諾)の枠組みだけでは完結しません。
24時間連続のライブストリーミングは、権利上「ネットラジオ(インタラクティブ配信や自動公衆送信に関する各種規定)」としての適切な処理が必要となります。権利処理を適切に行わなければ、Content IDによってブロックされたり、収益が権利者へ帰属したりする可能性があります。
配信を安全かつ持続可能な形で運用するための結論はシンプルです。「自作曲、もしくは完全に使用許諾がクリアされた音源のみで構成すること」。
この制約に直面したとき、「あぁ、自分で曲を作れる音楽家で本当に良かった」と、思わず苦笑交じりに実感しました。
自分の音楽から、まだ見ぬ才能のプラットフォームへ
このラジオ配信は、まずは私自身の楽曲のみを全編でフィーチャーする形でローンチします。自作の音響空間を、自作のアルゴリズムが24時間紡ぎ続ける、いわば純度の高い「音の実験室」のような番組です。
ですが、ここで終わらせるつもりはありません。
システムが軌道に乗った将来には、有志のアーティストの皆さんから楽曲を公募し、この番組のプレイリストに組み込んでいきたいと考えています。
思い返せば私自身、まだ駆け出しだった頃は、インターネット上の同人サイトや小さなコミュニティ空間に支えられながら表現の場を広げてきました。あの頃に感じていた「自分の音を誰かに聴いてもらえる歓び」を覚えています。
だからこそ、この新しいラジオという場所が、才能あるアーティストたちの活動を後押しし、新たなリスナーと出会うための「温かい循環の場」になればと願っています。
帰郷という人生の節目から始まる、小さなインターネットラジオ。
技術と音楽、そして人との出会いを紡ぐ場所へ育てていけたらと思っています。
Akihito Kimura