作曲において、「何を感じさせるか」を直接コントロールすることはできません。

ただし、その変化が起こる「条件」を設計することはできます。

本書は、音楽を感情表現やテクニックとしてではなく、
制約された確率空間の中で立ち上がる「現象」として捉え直した試みです。


音楽はしばしば、意思や感情の直接的な投影として語られます。
しかし実際のところ、私たちが耳にしているのは「結果」であって、「原因そのもの」ではありません。

音と音の関係性、時間構造、密度、反復、逸脱。
それらが組み合わさったときに初めて、知覚は意味や感情を「後付け」で生成します。

つまり、作曲とは感情を描く行為というよりも、
感情が立ち上がる条件を配置する行為に近いと言えます。


この視点に立つと、カオスは単なるランダムではなくなります。

むしろそれは、まだ可視化されていない分布の集合です。
完全な無秩序ではなく、確率構造を持った揺らぎ。

そこに幾何学を見出すこと。
それが設計という行為の本質だと考えています。


理論はルールではありません。

それは「何をしてはいけないか」を定めるものではなく、
「何がどの頻度で起こりうるか」という選択可能性の地図です。

そして作曲とは、その地図そのものを設計することでもあります。


本書では、実測データをもとに、
音と意識の関係を静かに再構成しています。

音符や和声を「表現単位」ではなく、
認知の変化を誘発する「条件変数」として扱うことで、
音楽という現象の別の輪郭を探りました。


「音楽理論だけで、音楽体験は説明できない」

20年間、音楽理論を学び、作品を世に出し続ける中で、そんな「当たり前」に回帰しました。

理論を捨てるのでもなく、神格化するのでもなく。

  • では、説明しきれない部分はどこから来るのか。
  • それは完全なランダムなのか。
  • それとも、「設計可能な揺らぎ」なのか。

本書は、その問いに対するひとつの仮説です。

音楽を「意味の表現」ではなく、
意味が立ち上がる「条件の設計」として捉え直す試みでもあります。


4月22日発売(予約受付中)